談林サロン

DANRIN SALON

<小説・密厳國紀>霧生丸編④ 「青顧1」

2020/07/23

「多くのものは私の声を聞いて心が波立ちます。女人がいるのか?といぶかりながら己が上だなと思うもの、あからさまに蔑みの心が表れるもの、さまざま邪念と妄念を広げる者までおります。」
「霧生丸も少し驚きの波紋が心にありましたが、すぐにおさまりました。なぜかとても懐かしい心が起こったようです。霧生丸は私の心に入り私の心をよみはじめました。が何を思ったのかすぐにまた心を平にしていました。」

「鑁大阿はどのように」

「大器だな」

「もう齢(よわい) 十一歳なので行には遅いのでは?」

「普通の者にはな。しかし霧生丸はもう全て学んでいた。私の座相、私の衣帯(えたい)私が黒衣の僧正であることも。この黒衣が紅花で染めた緋の衣でありわたしが僧綱の最高位の印、縹色の大帽子をつけていることまでな。」

「なんと。」

「しかし霧生丸はなぜ己がそのような事を知っているのかは、わからない。幾つもの記憶が消えている。大きな心の傷が消したのか、何者が消そうとして僅かに記憶のかけらが残ったのか。」
「大器ではあるが、ここに残り真の行までたどり着くのか、或いは彷徨い人になるかは本人次第。」

「大器は善に向かう心力も強いが魔からの誘いも大きい。霧生丸の記憶を消したその因がわかれば。」

「鑁大阿は霧生丸の深層の心に入られたのでは。」

「六識を超え七識八織までは降りたが、そのさらにその下には行かなんだ。
霧生丸の深層が泡立ちその下に降りると霧生丸自身の生命が危うい。
その刹那、霧生丸は気を失い奈落に落ちた。
あと半刻もすれば霧生丸もの目覚めるだろう。
青顧よ、霧生丸が目覚めたらこの院をすべて案内あないしてやれ。そして心の傷を癒しながらその因を解いてやれ。」

「はっ。」