DANRIN SALON
<小説・密厳國紀>霧生丸編③ 「三室山海剛山院」
2020/07/23
三室山(みむろやま)の山頂近くに建てられたこの海剛山院の殆どが三室山の岩盤の中に秘められている。
この方丈だけが唯一外界に開かれていると言える。
勿論多くの僧が住まいする海剛山院の中は岩盤の中とは思えない豊かな空間と数多くの居室
厨房と岩風呂もある。
岩盤上部にできたいくつもの割れ目から陽の光が入らるので暗さは感じない。
それでいながら、どんなにつよい風雨でも岩盤を伝わる間に緩やかに軽やかになり風は居室を巡り常に新しい空気を運び、雨水は岩に穿たれた溝に沿ってやがて大きな水溜に導かれる。
岩盤の地下深くから湧き出る湯と山頂から湧く清水がこの海剛山院の生活を支えている。
酷暑の夏もこの海剛山院の中には爽やかな風が吹き渡り暑さを感じない。
寒い冬も湧き出る湯を岩風呂に溜め暖気を上層の居室に送るのでどの部屋も暖かい。
古の時に海大阿が自ら岩を穿って造り上げた海剛山院には海大阿の類稀な知識が生かされて
この院に住すると海大阿の心に触れられるように思える。
青顧は初めてここに来た時のことを思い出していた。
「青顧よ、霧生丸をどのように見た。」